渡辺棋王 防衛
渡辺棋王が、若手の本田五段の挑戦までの勢いを止め、 3勝1敗で8連覇を達成しました。
本田五段 は 歴代2位の早さとなるプロ入りから1年4カ月でタイトル挑戦を決めたシンデレラボーイです。
「目標とするのはトップ棋士の将棋でなく、AIのように考え指すことが理想」
トップ棋士が眼中にもないようにも聞こえる言葉は、大人しい外見とは違う熱くて気の強い本田五段の一面を良く表現してるかもしれません。
対する渡辺棋王は、中学時代にプロ棋士になり20年以上第一線で戦ってきました。20歳で竜王位で初タイトルを獲得してから35歳になる現在まで、何かしらのタイトルを保持し、無冠になったことはありません。
そんな渡辺棋王にも数年前スランプが訪れます。棋王が得意とする 「王を堅めてから、細かい攻めを繋ぐ」というスタイルで徐々に勝てなくなっていました。
その数年前 ー 2017年度は、21勝27敗( 0.4375)と 始めて負け越しています。
その前年の期は永世棋王が掛かっていましたが、インタビューでも弱気な発言が目立ちました。
「永世棋王は連続5期のみで、最初で最後のチャンスになると思うので、頑張りたいです」
当時の挑戦者 、最先端の感覚を持ち「ソフトの申し子」と呼ばれる千田六段(段位は当時)に フルセットと苦しみながら、防衛し永世位を獲得しました。
その2016年度も、防衛し、永世位も獲得したものの棋王の成績としては物足りないものでした。
2016年度 27勝 18敗 0.600
負け越した2017年度に、最強挑戦者 永瀬七段を迎えます。フルセットまで行きましたが、何とか防衛します。
ここを乗り越え
2018(次)年度からは 「堅く囲う」形と現代感覚と呼ばれる「バランス」型の将棋の感覚を上手く融合し取り入れることに成功し勝ちまくります。
2018年度 40勝 10敗 0.800
2019年度 40勝 15敗 0.727
30を越えベテランになり、成功した自分のスタイルを変更することは大変だったとは思います。
渡辺棋王の位置では、殆どトップの相手しか当たらないので成績のすごさが分かると思います。
同じく8割を超えている藤井七段は予選からのスタートがまだまだ多いので、下の人たちとも当たります。
その結果、対局数も増えますが、勝ち星も増えます。
さて、決定局となった4局目の将棋の話です。
後手の渡辺棋王が2手目に角道を開ける「3四歩」を選択します。
本田五段は、 コンピューター将棋が得意とする角道を止めたまま戦う「相掛かり」という戦法が得意なのですが、渡辺棋王が避けた形になりました。
渡辺棋王は、実は2局目に「相掛かり」で 完敗しています。その事が頭にあって、避けたのかもしれません。
プロの将棋の勝負としては、二パターンに選択が分かれると思います。
- 将棋の真理 追究タイプ
- 勝負にこだわるタイプ
前者の真理の追究タイプは、羽生九段や藤井七段が代表に上げられると思います。得意戦型を真っ向から受けて、共に研究していく。このタイプだと、「8六歩」を選択していたと思います。
棋王はどちらかというと後者のタイプで、自分の得意の土俵に引っ張り込んで戦います。
その違いが、象徴されたのが棋王の2手目でした。
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将棋は、後手の棋王が角道を止め更に注文を付け、雁木模様に進みます。勝負巧者の 渡辺棋王が 事前に準備できる研究勝負ではなく、 手将棋(前例がなく自力で考える必要がある)に上手く誘導しました。
その後は、自力勝負へと進行し、一手一手難しい局面が続きました。
「嗅覚の差」?
この局面では、控室のコメントは難解ながら先手が指せるのではという見解でした。
「先手は歩得で馬もできています。
後手は持ち駒に飛車があり、いつでも△6六飛と大駒交換ができます。
端の嫌みはありますが、私はやや先手持ちです」(瀬川六段)
「10手ほど前は後手が苦労しているように見えました。いまは先手が厚く感じます。
先手は気を使う形ですが、本田さんはこういう展開をまとめるのがうまい印象があります。
私も少し先手持ちです」(三枚堂七段)
渡辺棋王は、少し前からやや作戦負けを意識していたのか、「9四歩」「9五歩」と端に2手を掛けて一気に形勢を好転させる手段を狙います。
後手に形勢が一気に触れる
そこへ。
ここから先手は5六馬と上がりました。しかし、角と馬の配置が悪く後手の攻めを正面から受けることになりました。
変えて、先手は「▲3六銀」として、一手溜める手が有力でした。ただ、局後の本田五段の感想で、「ぱっとしない手なので指しづらかったですけど」との感想を残していますので、実践的には指しづらかったのかもしれませんが、有力な手順でした。
感想戦で出た手順の一例 「△3五歩▲同銀△3四歩▲4四歩△5二銀▲3四銀△6五歩▲4八角△4四飛▲5六馬」と進んだ局面は、地味ながらも、後手からの仕掛けも難しく先手が面白い展開だったかもしれません。
▲5六馬が祟る変化手順の一例
端への猛攻
すっと上がった「▲5六馬」から端への猛攻を受けることになります。
以下 「△9六歩 ▲ 同 歩 △同 香 ▲ 9八歩打 △6五歩打 ▲ 4八角 △9四飛 ▲7四歩 △9八香成 ▲7三歩成 △同 金 ▲9五歩打 △同 飛 ▲3四歩 △9九成香 ▲3三歩成 △同 金 ▲6八玉 △9八飛成」と、先手は早逃げでしのぎますが龍が成りこむ展開になりました。
この局面で、局後のインタビューで 「行けるのでは」と思ったという感想を残されていますが、この後は盤石の指し回しで勝ち切りました。
この後、渡辺棋王は 王将戦第七局、名人戦が控えています。
◇ 棋戦 棋王戦
◇ 対局者 先手(▲)本田五段 / 後手(△)渡辺棋王
◇ 対局日 3月17日
◇ 対局場所 東郷神社
◇ 開始時間 9時
◇ 終局時間 17時47分
◇ 線型 雁木
◇ 消費時間 ▲本田五段3時間40分、△渡辺棋王3時間18分
◇ 持時間 4時間