「ちょこっと京都に住んでみた。」 書き起こし
はじめに
わたしも、大学を出るまでは京都に住んでいました。両親が二人とも地方の出身だったこともあり、私自身もろくに正しい京都弁を使う事も出来ません。お雑煮の風習も すまし汁で異なっています。
このドラマは、今は失われつつあるかもしれない京都の古き良き時代の人々と街の話です。ひとことひとことが何気ないようで、重みがあるそんな不思議な会話がそこにあります。
少しでも興味を持ったら、このドラマを見て欲しいです。「 1 月 12 日(日) 12:49 」まで無料配信しています。
https://tver.jp/episode/66711040
あらすじ
江東佳奈(木村文乃)は 大叔父の 大賀茂(近藤正臣)が指を怪我したことを心配した母に頼まれ京都にやってくる。
大賀茂 は 毎日 ミッション(お使い)を頼むのだが・・
木村文乃 に関しては 「殺人分析班」と言うドラマのイメージが強くて、目力が強く、凛とした鋭さを持った印象がありました。今回全く逆のイメージで、ドキュメンタリー形式と言う事もあるかもしれませんが、柔らかく優しく自然体なドラマ全体の雰囲気を作っていました。いい意味で裏切られました。
以下、セリフは 大賀茂 = お 江東佳奈 = 佳 とします。
1日目
夜
お「これこれですこれ。これこれがないとあきませんねんで」
- 山椒の瓶を振りながら
佳「それ、私が買ってきたやつ」
お「うんうん。せやな。」
- 二人 笑
佳「それ私が買ってきたやつ。わざわざ回るだけのことはあるね」
お「晴れと着というのは知ってるな? 」
佳「晴れと着。 何それ?」
お「おめでたいことやお祭りやなんかのことを「晴れ」」 そういう時に着るのが 晴れ着や。」
佳「うん、晴れ着!」
お「着というのはまぁ日常的な普通の日か。料理でもそういうのあるんやで 上等でよそ行きでいかんとあかん店。たか〜い店。それは「晴れ」や。 普通にひゅ〜と入っていって食べられるお店、それは「着 」の店やけれどもや、 なかなかうまいもんもようけい(沢山)あってなぁ。面白いんやで、そういう 「着」の店で長いことやって来てはるところでここはええぞ〜というところがあるさかいに、ちょろちょろっと探しにいったらおもろいかもしれんなぁ。知らんけど。 」
佳「じゃあ今日のお店は?」
お「着の晴や。」
佳「ふーん。かっこいい。」
お「食べよ。うなぎ」
2日目
**朝
**お「美味しいわ〜」
佳「決まりきったこと言わんでもよろし。」
お「水汲んできて」
佳「え、水出てるよ。」
お「料理の水や」
佳「水道の水でご飯炊けへんやろがぁ。 ついでにコーヒーの豆も買うてきてや」
お「お参りしてから水頂くんやで」
- 佳奈 自転車で出かける
…
お「京都は水の都 いうやろ。鴨川やとか嵐山も桂川ちゅうなもんは有名や。目に見える川や。ほんまの京都の水というのは地べたの下やで。地べたの下で脈々とこう水が流れてるやんやないかい。そやなぁ子供の頃は町内に一つ、こう かぽーんかぽーんかぽーんとポンプで水をもろうたもんや。そうや、おじぞうさんもあったなぁ。必ずあったんや。」
夜
お「京都の人はなんや水を大事にして来ましたんやなぁ。 水が合わんてなことあるやろ。京都の人がちょい〜と外に行かはって、 あかん、この水合わへんて言わはったんや。 知らんけどな」
お「今日ご飯 外で食べようか」
佳「うん!」
佳「なんかレトロな香りがする」
お「ああ。昭和3 3 年創業や」
佳「老舗だね〜」
お「まだや。京都では、100 年ぐらい経ったからというて老舗の看板出させて貰えまへんのやで」
佳「厳し〜」
お「どや、京都は和食だけやないんやで。 京都の人はな色んな所で食べるもんの店持ったはる。和食、洋食、中華料理、それぞれがお気に入りの店をもったはるんや」
佳「つまり、ここはおじさんの洋食のお気に入りなんだ」
お「そうや」
佳「へ〜。 でもね、すっごく美味しい〜」
お「当たり前のこと言うてええ」
佳「ええんか」
- 布団に入りながら
佳「あ〜今日も美味しかった〜。 面白いな〜京都」
3 日目
朝
お「え〜と、今日のミッションや」
…
佳「美味しい和菓子屋さんも教えてよ」
お「断る。」
佳「なんで〜」
お「なんででもや」
佳「いいよ。ネットで探すから」
お「やめとき。自分の好きなものは自分で探さなあかん。スマフォなんかに頼らんと自分の嗅覚だけで探したら良いんや。 あんたには好きなものを探す自由があるんや。知らんけど」
佳「わかった。」
- 自転車で出かける
佳「はは〜 私は今自由だ。」
夜
お「おい、ちょっと外歩こうか」
佳「どこいくん」
お「その辺」
- コーヒ豆を挽いて、コーヒーをいれる
お「ボーッと鴨川眺めながらコーヒー飲んでるのわしの好きなとこのひとつや」
佳「わたしさ〜 仕事辞めちゃったんだ。デザイナーになりたかったんだけど 全然ダメだし。 遅くまで働いて 人と競争して ご飯なんか大体コンビニだし。 好きだった絵を描くことも嫌んなっちゃった。 私人生に失敗しちゃったんだよね。 」
お「ワシも中途半端や。 結婚もしてへんさかい、 子供もおらんやろ。 仕事〜3、4 回変わったな。まあ、あんたの基準からしたら、わしの人生失敗だらけや。けど、わしそんなん思てへん。人生ていうなもんはもっとシンプルに生きたらどうやな。 何でもやったらいい。やってるうちに色々好きなことが見つかるやろ。 好きなことをどんどんどんどんどんどん増やしていって、そうして毎日生活する。 楽しいやろ、知らんけど。」
- 二人、まばらに笑う
佳「そうなのかな。 そっか。それより 手〜大丈夫なの」
お「あ、知らんうちに治ってるわ」
佳「嘘だ〜。 それも優しさ?」
お「これ、これちょっと これ」
- 小指を出しながら
佳「全然大丈夫じゃん。いけずだなぁ。 ありがと。」
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- 佳奈 おじさんに電話
佳「もしもし、おじさん」
お「えらい 長い買い物やったんやなぁ。 楽しかったんやろ。」
佳「すご〜く」
お「あんたにも 京都の水 あんたにも合うたんかな」
佳「あのね、おじさん」
お「なんや」
佳「ううん、何でもない。 じゃあね」
- 電話を切る
帰る日
- 餅を囲炉裏で焼いて食べる二人
佳「いただきまーす 」
お「美味しい」
佳「せやから当たり前のこと」
お「当たり前のことをいちいち言わんでよろしい」
佳「ねぇ、おじさん、また京都、遊びに来てもいい? 会社の寮に住んでたからさ いられなくなっちゃって今実家に帰ってるんだけど そこもうお母さん一人の家だったんだよね。 わたし居場所なくなっちゃったんだよね」
お「あんたの居場所ならちゃんとあるやないかいな。あれ、あんたが買うてきた椅子やろ。 あれが居場所や」
別れ
お「佳奈ちゃん、京都どうやった」
- しばし 間
佳「ちょっと、大人になったかも」
お「じゃあね」